Special Talk BIG3座談会 史上初の座談会! 導かれし勇者たちの冒険記

『DQXI』は勇者も曲も“新しい”。

―――― お三方で座談会をされるのは今回が初めて?

堀井雄二(以下堀井): 3人で集まってドラゴンクエスト(以下DQ)について語るのは、DQシリーズを30年やっていて初めてですよね。

鳥山明(以下鳥山): そういえば初めてですね。

堀井: なんとなくやったことあるのかなと思っていて、初めてと聞いて「まじか」と思いました。

―――― 『DQXI』の作業はいつごろから始まったのでしょうか?

すぎやまこういち(以下すぎやま): 作業が始まったのは2年前ぐらいですよね。

堀井: 一番はじめに鳥山先生のところに発注に行きましたね。お話を作るときにどんな設定にするか、主人公はどうしようか、仲間はどうしようか、どんなキャラクターにしようかを考えてから発注をするので、2年前くらいかな。その時にはもう“追われる勇者”という設定は決まっていましたからね。

鳥山: 一度、追われている感じでボロボロに描いたらボツになりましたね。

一同: (笑)

鳥山: “追われる”という感覚が難しいなと思いました。

すぎやま: 僕は「DQは 『DQX』までで一区切りで、『DQXI』がまた新しいスタートになるから、町の曲からフィールドの曲まで、全部新しい曲にしますので覚悟してください」と言われました。

堀井: そうですね。『DQX』まででひとくくりで、また何かが始まる。“新しい勇者”みたいなものにしようと思いました。サブタイトルもそのニュアンスを匂わせて“過ぎ去りし時を求めて”にしたんです。

すぎやま: 全部新しい曲にするっていうから、「えらいこっちゃ」と。基本的な曲はほとんど新曲なので曲数がえらく多かったですね。全部で37曲ぐらい…いや、もっとあったかも。

鳥山: 僕の作業量で嘆いている場合じゃない!(笑)

すぎやま: すでにDQシリーズで400曲くらい書いているかな。

堀井: いっぱい書いてもらいましたね。

すぎやま: すでに400曲ぐらい書いているところで、またわかりやすい曲で、しかも違う曲。これは「えらいこっちゃ」と思いました。

鳥山: 僕も後の作品になってくると、前に描いた感じがするものはなるべく避けようとしているので、後になればなるほど大変ですね。

堀井: 僕は一番難しいのは主人公だと思うんですよ。脇役は個性があってキャラが決まっているから。

鳥山: 僕の中で“いいヤツ”のバリエーションは、もう『DQIII』くらいで尽きていますね。

堀井: 主人公がプレイヤーの分身なので、あまり個性が強いといけないし、かといってカッコよくないとだめだし。

鳥山: そうなんですよ!

堀井: そのカッコよさも、さらに変えていかないといけないし。なので主人公が一番難しいと思いますね。

すぎやま: そのあたりは音楽と事情が似ているところがありますね。

堀井: そうですよね。音楽も戦闘とか、町とか城とか、よく出てくるオーソドックスな曲が一番難しいと思いますね。

試行錯誤から誕生した『DQXI』キャラクター

―――― 『DQXI』の主人公のビジュアルは今までとは違う感じですよね。

鳥山: ちょっと真面目で地味な感じにしたかな。“追われる勇者”なので、あまり派手な服を着ちゃまずいだろうなっていうのもありましたね。

堀井: 2度目にあがってきた現在の絵がまさにイメージ通りでした。ちょっと影があって、線が細くて芯が強い。

―――― 『DQXI』で一番印象に残っているキャラクターは?

鳥山: 印象というか、カミュが一番つかみにくかったですね。最初はこずるい感じの奴なのかなぁとか色々と考えました。盗賊で、泥棒とかもしているんですよね。

堀井: そうなんですよ。

鳥山: でも男気もありそうだし、あれは探り探りでデザインしていましたね。

堀井: 何度か質問もいただきましたよね。でも最終的には主人公とはちょっと違った、味のあるイケメンキャラになったと思います。

―――― 『DQXI』の、他のキャラクターはどうですか?

堀井: セーニャとかベロニカとか女の子も可愛くて、いいと思います。あとシルビアもいい味出していますよ。みんなそれぞれ個性があっていいですね。しかも今回はPS4®では、鳥山先生の設定画がそのまま動いて、アクションをしちゃいますからね。

PS4®版とニンテンドー3DS™版、2つの『DQXI』の魅力

―――― PS4®では初となるシリーズ本編作品ということで、製作する上で変化はありましたか?

すぎやま: DQの基本的なイメージは変わらないと思いますよ。僕の音楽もそれに沿っていきたい。僕の音楽の方向性を決めてくれたのはこれ(スライムのフィギュアを指差して)なんですね。外国のゲームで敵のキャラクターというと、スライムとかおどろおどろしいじゃないですか。

堀井: そうですね。ドロドロ系。

すぎやま: DQのスライムは可愛いんだよね。これで僕の基本的な音楽の方向性は決まったなぁという感じがしましたね。音楽も戦闘の曲やダンジョンの曲でも、汚らしく、おどろおどろしくしたくない。可愛くきれいな音楽にしたいという方向性はこのスライムで決まったといってもいいですね。ハード向けの編曲とか、アレンジとか、音色の選定はありますけど、ハードがファミコンだろうと、携帯ゲーム機だろうと、PS4®だろうと、メロディーとハーモニーは全然変わらないわけですから。

鳥山: 『DQXI』のPS4®版は半漫画的なキャラクターでリアルに出来る、ぎりぎりのところかなという感じはありますよね。

堀井: 風景とかもすごくリアルなんだけど、鳥山先生のキャラもピッタリおさまっていて、いい雰囲気をだしていると思いますね。草とか自然がすごくリアルなんだけど、鳥山先生のキャラを置いても違和感がない。逆に生き生きしていて、空気感もある。

鳥山: 丁度いい感じですね。

堀井: そうですね。

鳥山: あれ以上リアルにすると、DQらしくなくなってきますし。

すぎやま: そうですね。

堀井: 3DS™版もいいですよね。3Dモードだと、やっぱり綺麗。2Dモードはキャラクターが小さくて、懐かしい感じがするのもいいですね。チマチマとしたリアクションをするのが懐かしいなぁ。

―――― 『DQXI』はPS4®とニンテンドー3DS™で発売されますが、2つのハードを選んだ理由は?

堀井: 最初はPS4®で開発を始めたんですけど、より多くの人に遊んでもらうために3DS™もという話になったんです。でもPS4®のほうがいいといわれるのも嫌だなぁ…、と悩んでいたところにスタッフから、「2Dモードと3Dモード両方できますよ」と言われて「それはいいね!」と。ある意味、2Dから始まってPS4®まででDQの30年の歴史をグラフィックで体験できるタイトルになるわけですから。ただ、同時に3本のソフトを作っている感じなので、とても大変ですけどね。スタッフも頑張ってくれているおかげで、もうほとんど出来上がっています。あとは調整だけですね。

鳥山: 2つのハードと聞いて驚きましたね。だって、ハードが違うとまったく同じようにはできないですもんね。

堀井: 全然別のものを作っている感じです。PS4®版、3DS™の3Dモードと2Dモードそれぞれでマップも違いますしね。

鳥山: 作業をする側のことを考えたら、恐ろしいですね。

堀井: 確かにPS4®を作っているチームと3DS™を作っているチームは全然違うんですよ。だから大きな修正をするときは苦労しますね。マップの距離感やギミックの問題もありますし。

―――― ほとんど出来上がっているということですが、他に苦労をしているのはどんなところですか?

堀井: 分量ですかね。3本ぶんを作っているだけでもすごいのに、シナリオもボリュームがありますからね。

すぎやま: 作業量は『DQIX』や『DQX』より多かったですね。曲数も多かったですから。でもすごくやりがいを感じるのは、ファミコンの音源から、だんだんオーケストラに近づいていって、ついには本当にオーケストラで演奏した音楽もゲームにのっけられるようになったこと。DQの音楽はファミコンの『DQI』のときから、オーケストラ音楽をイメージして作っていたので、そこは嬉しいですよね。

それぞれが抱く『DQXI』への特別な思い

―――― 『DQXI』の見どころを教えてください。

堀井: 全体的にDQシリーズの集大成になったと思います。音楽で言うと、乗り物が空を飛ぶ曲や、フィールドの曲もいいと思います。あまり言うとネタバレになっちゃうけど…これは言っちゃっていいのかな? エンディングの曲が感動するんですよ。皆さんこの曲を聴くと、色んな思い出がよみがえるんじゃないかな。『DQXI』は主人公がさらさら髪で今までにないようなイケメンだから、絵的にもすごい楽しいのではないかと思います。カミュやシルビアもいい味だしているし。今、スタッフ全員が完成に向けて頑張っているので、期待していてほしいですね。

鳥山: 画面を見てもすごそうだったから、どんな感じになるんだろうっていう期待感がありますよね。

―――― 『DQXI』は新しいスタートとなる作品ということですが、特別な思い入れはありますか?

堀井: 僕にとっては特別な作品ですね。10個やって11個目という新しいスタートです。とりあえず『DQXI』を素晴らしい作品に仕上げて、反響を見てみたいですね。

すぎやま: 堀井さんから新たなスタートというお話を聞いて、色んな場面で新曲をいっぱい作ったので、これは後々の糧になると思いますね。しっかり良いものを作って残しておきたいという思いは、お二方に比べて僕だけ20歳年上だからより強いのもありますね。多分、一番先にこの世からいなくなる候補者ですから。今で言うと、『DQXI』の楽曲のオーケストラのレコーディングがそうですね。ホール録音で4日間かけて、東京都交響楽団とやります。しっかり良いものを作らなきゃ。

堀井: 20歳年上ってすごいですよね。「そんなに年上だったんだ!」と驚きました。僕は20年後、そんなに仕事できないですよ。

鳥山: 僕はもう引退したい!(笑)。

すぎやま: 自分でもよく働いていると思うね(笑)。今年だけで、オーケストラコンサートが何十もある。

一同: (笑)

こちらの内容は2017年5月27日に配布された『Vジャンプ特別編集 THE FIRST BOOK of DRAGON QUEST XI』に収録されたものです。

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